「事業承継に向いている事務所とは?」「事務所の価値計算方法は?」などコラム形式で詳しくご説明します。

後継者がいない税理士のための予備知識(13)

後継者がいない税理士のための 予備知識(13)
会計事務所事業承継の現状を振り返る

(株)MJS M&A パートナーズ 会計事務所事業承継専任アドバイザー
中尾 安芸雄

 

 本連載も13回目となり、今回は過去12回のガイドも兼ねて、会計事務所の承継を俯瞰してみたいと思います。過去のバックナンバーをぜひご参照ください。

 

 会計事務所の事業承継相談を経験するほどに感じることは、事業承継に関する知識と情報がまだまだ十分に伝わっていないということです。人生において基本的に1回しか経験しないことだから仕方ない面もあります。同時に、情報をある程度提供できる側の人間として伝える努力が不足していることも反省しないとなりません。

 

 まずは早めに知識・情報を習得して欲しいのです(多様化する事業承継 早めに着手を/第1回)。知人の先生に相談を持ち掛ける、あるいは税理士法人化するなどは、日々全国で仲介業者を使わずに行われていることです。今後もおそらくそれが主流だと思います(「自分でやってみる」会計事務所の事業承継/第6回)が、その場合でもなるべく情報は集めて、自分のポジションは客観的に把握しておきたいものです(事業承継に向いている事務所、向いていない事務所/第2回)。

 

 事業承継の方法(スキーム)は、事案ごとに違いがあるとともに、その契約内容も毎年変化しています。ある程度網羅されるには、まだ時間が必要なのかも知れません。ぜひお伝えしたいことは、他の事務所、特に税理士法人に支援を求める場合でも、それは事務所の売却つまり事業譲渡(M&A)だけではないということです。契約内容は、個々にカスタマイズする余地があるということです。事務所を事業譲渡するつもりではあるがその決心がつかないケースなどは多い事例で、契約内容も工夫をすることで対応が可能です。(事業承継の決心がつかない所長先生のための「所長継続型事業承継契約」/第5回)。弊社からのアドバイスの基本方針は、数年間をかけてゆっくり承継しましょう、というものなので、いわゆる事業譲渡(M&A)とは内容が異なります。最近、弊社では「事業合流」という言葉を使っています。その契約では備品・システム等以外には譲渡するものはなく、まずは経営を一体化して大きな組織の中で時間をかけて承継問題を解決する方法です。

 

 事業譲渡や事業合流をご説明しても、やはり後継者を探してほしいというニーズは根強いものがあります。相談件数の半数以上がこれに該当します。若い税理士、特に地方都市で承継を希望する税理士不足の状況は今後も解消できないでしょう。税理士の採用は、首都圏の中堅税理士法人でさえ苦戦しているのが現状です。このことは早めに認識していただきたいと思います(事業譲渡ではなく後継者を探したい所長先生へ/第7回)。この課題を少しでも解決できないかと考え、昨年、人材紹介会社のジャスネットコミュニケーションズと業務提携し若手税理士を紹介する仕組みを始めました(税理士後継者紹介サービスの実際/第11回)。サービスが活性化するためには、まだ時間がかかる取り組みとは思いますが、このような仕組みは税理士業界にとっても必要ではないかと考えます。

 

 後継者となる税理士を迎え入れる場合でも、雇用契約の場合もあれば事業譲渡の場合もあるでしょう(2つの選択肢「後継者招聘」と「事業譲渡」の関係/第9回)。すでに税理士として自宅などで開業している若い世代の税理士は、数件の顧問契約があり、この段階で廃業して雇用契約に移行することが障害になる場合もあります。いずれにしても承継の方法をしっかり話し合って契約書を作成したいものです(後継者を招聘するための代表的な課題/第10回)。

 

 事業譲渡の場合には、譲渡価額の算定は大きなテーマです。ただ、弊社の仲介方法では「譲渡」という発想よりも、数年に渡って承継をする場合に引退までにどのような収入を得るのかという視点になります。それでも事業譲渡をした場合の評価は必ず参考にしますので計算することになります(事務所の価値の計算方法(上)/第3回)。売上基準と利益基準を比較し、さらに事務所ごとに個別事情を勘案してご提案しています。先程、契約内容も変化していると申しましたが、数年かけて承継する場合には譲渡価額を契約時には決めない方法などもあります(事務所の価値の計算方法(下)/第4回)。

 

 事業合流のように、譲渡価額がない契約方法も生まれていますので、あまり譲渡価額に論点を絞った交渉は承継スキームの自由性を奪ってしまう場合もあると思います。まずは顧問先に不安を与えないためにも職員が継続して安心して仕事に取り組めるスキームを検討する中で、譲渡価額が見えてくるものと思います。仮に純粋な事業譲渡の場合でも譲渡価額の将来への影響度も理解しておくべきでしょう(事業譲渡額に関する譲り受ける側の論理/第8回)。弊社が譲渡価額をはじめから交渉の論点の中心にしないことをお勧めしている理由も考えていただければ幸いです(投資回収期間から考える事務所の事業価値評価/第12回)。

 


関連リンク
予備知識(1)多様化する事業承継 早めに着手を
予備知識(2)事業承継に向いている事務所、向いていない事務所
予備知識(3)事務所の価値の計算方法(上)
予備知識(4)事務所の価値の計算方法(下)
予備知識(5)事業承継の決心がつかない所長先生のための「所長継続型事業承継契約」
予備知識(6)「自分でやってみる」会計事務所の事業承継
予備知識(7)事業譲渡ではなく後継者を探したい所長先生へ
予備知識(8)事業譲渡額に関する譲り受ける側の論理
予備知識(9)2つの選択肢「後継者招聘」と「事業譲渡」の関係
予備知識(10)後継者を招聘するための代表的な課題
予備知識(11)税理士後継者紹介サービスの実際
予備知識(12)投資回収期間から考える事務所の事業価値評価
予備知識(13)会計事務所事業承継の現状を振り返る
予備知識(14)「事業合流」と「事業譲渡(M&A)」を比較する
予備知識(15)事務所承継、その相談から実施までに必要となる期間
予備知識(16)事業承継スタート日前後の収入の帰属


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