「事業承継に向いている事務所とは?」「事務所の価値計算方法は?」などコラム形式で詳しくご説明します。

後継者がいない税理士のための予備知識(11)

後継者がいない税理士のための 予備知識(11)
税理士後継者紹介サービスの実際

(株)MJS M&A パートナーズ 会計事務所事業承継専任アドバイザー
中尾 安芸雄
ジャスネットコミュニケーションズ(株)事業開発室長
安島 洋平

 

 後継者となる若い世代の税理士をご紹介するサービスが「税理士後継者紹介サービス」です。従来の人材紹介サービスの拡張型になりますが、そのサービス内容は大きく異なります。そこで、本サービスの実際を詳しくご説明します。

 

■いわゆる人材紹介サービスとの違い

 人材紹介会社に税理士の紹介を依頼する場合には、その募集条件として「事務所の後継者候補としての募集である」という情報を追加することになります。求職者側にもその情報は伝えられ、人材紹介会社は両者の橋渡しをします。
 しかしながら、入所後に後継者としてどのようなプロセスを踏んでいくのかは採用側の会計事務所次第です。つまり後継者前提で採用されたとして、採用後にポジションが変わってしまうケースがあっても人材紹介会社が立ち入ることはありません。入所後、当事者同士でどのような話し合いが持たれたかは関知できないのです。
 他方、「税理士後継者紹介サービス」は、事務所の承継の具体的な方法まで関心を持ち、求人側と求職側の考え方や要望などを整理して一緒に検討します。その話し合いの結果として採用(所属税理士となる)が決まる場合もあれば、雇用契約以外の方法に発展する場合もあります。そこまで関与するのが「税理士後継者紹介サービス」です。

 

■このサービスの付加価値とは

 後継者候補となる人材を紹介するだけでは、両者の面接はやはり通常の採用面接になります。採用する側と採用される側としての面接、しかも年齢差も大きい中での面接は、採用する側が主導的になることは当然でしょう。しかし、事務所を承継することを期待して応募する側には通常の雇用契約とは次元の異なる意思決定が必要となります。その両者の関係を対等な立場とし、両者が深く事前に話し合う機会をつくること、その上で意思決定してもらうことを実現すること、ここにこのサービスの本質的な付加価値があると思います。

 

■後継候補者をストックする

 このサービスの特徴として、後継者探しの依頼が来てから探すのではなく、事前に若い世代の税理士・公認会計士を登録して、その情報を公開します。ジャスネットコミュニケーションズは、会計/経理専門の人材紹介/人材派遣会社ですので、全国の後継者不在で悩んでおられる事務所を承継する意思がある税理士・公認会計士に呼びかけ、面接を行いその人柄や要望などを登録する作業を進めています。

 

■後継者候補を探すための「後継者名鑑」

  従来の人材紹介サービスでは、どのような人材が登録されているのかを知ることはできませんでした。このサービスでは、事務所を承継することを希望する人材を、本人の承諾があれば積極的に公開することにしました。後継者のイメージに合うかどうかを少しでも判断できるように、プロフィールだけでなく、写真も含めて人柄や経歴がわかる情報を開示します。このサイトを「後継者名鑑」と名付け、全国の後継者がいない先生に知っていただこうと考えています。(後継者名鑑 https://www.jusnet.co.jp/directory/

 

■後継者を募集する事務所もオープンに

 他方、後継者を募集する事務所にも、順次、訪問してヒヤリングをします。このサービスの趣旨をご理解いただけた場合には、取材も行い積極的に後継者を募集していることをアピールします。事務所の事業譲渡(M&A)とは異なり、後継者がいなくて困っていることが既に周知の事実となっている場合は多数あります。この場合には、先生も職員も後継者を待ち望んでいます。その事務所がどこにあり、どんな事務所なのか、情報をオープンにすれば応募者も手を上げやすくなると思います。

 

■マッチングと面談

 当面は、求職側と求人側のマッチングは、ジャスネットコミュニケーションズが行うことにしています。両者の意見を聞きながらも交通整理を行い、面談を設定します。そのため、採用面接というよりはトップ面談に近い設定となります。面談には、アドバイザーが同席して、まずは両者の自己紹介や要望などを話し合うことになります。

 

■基本合意書の作成

 将来の事務所の承継のことは深く話さず、採用が決まる人材紹介とは異なり、採用するかどうかの前に、まずは事務所の承継について協議を進めます。採用してから承継を考えるのではなく、両者で承継のイメージができることにより、採用が決まるという流れになります。両者が要望されれば、事務所承継のスキームを可能な限り文書に残し、理想としては基本合意書まで作成することを想定します。基本合意書の内容に基づき、雇用契約を締結する、あるいは業務委託などの契約を締結することになります。

 

■雇用契約、業務委託等

 年齢も若く実務経験が乏しい応募者の場合には、雇用契約を締結してしばらくは所長のもとで経験を積む場合が多くなるでしょう。他方、経験が豊富な場合や、すでに税理士として独立している場合には、雇用契約ではなく事業を承継する契約を締結する場合も想定されます。事務所の承継は、両者の状況・考え方によりそれぞれ個性のある承継スキームになる場合がほとんどであり、両者が面談をする中で考えが変わる場合、新たにアイデアが生まれる場合もあります。従って、どのような承継になるかは、事前には決められないことになります。

 

■退職慰労金

 雇用契約を締結して所属税理士として勤務した場合でも、残念ながら基本合意書の通り事務所の承継に進めない場合が想定されます。そのため、基本合意書には、事務所の承継まで進まずに退職する場合の慰労金についても記載することにしています。後継者として認めることができない場合、誰もが納得できる理由がある場合は例外的であり、実際には主観的な判断になります。求職者側が承継を希望しているにも関わらず先生の意向で承継を認めない場合もあり得る以上、事前に退職慰労金も決めておくことが必要でしょう。

 

■手数料

 ご紹介した税理士と雇用契約を締結した場合には、有料職業紹介事業に該当します。この場合には、国に届出している理論給与額の一定割合(当サービスの場合は、35%)となり、雇用契約ではなく事業承継契約の場合には、求人側と求職側双方から仲介手数料(当サービスの場合は、7%)をご請求させていただくことになります。

 


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